結論-壱: わっかんねえでござるよ!
結論-弐: 意図的にぼかされてござるよ!
結論-参: 1ギルは1ギルにござるよ!
なぜわっかんねえでござるのか
ハイデリン世界と現実世界は、価値観のベースとなる『世界の在り方』が異なるためです。価値観が違うのに、適当な値札を貼るのは烏滸がましい気がしませんか。ゆえにわっかんねえでござる。いくつかのサンプルから強引にこじつけることは可能ながら、あくまでも汎用性がなくその場限りの参考値に過ぎません。
もうちょっと詳しく
世界の在り方が違うとは、具体的にどういうことか。例えば現実世界では、物理的な耐衝撃性能などをもって「防御力の高い装備」とされます。しかしエオルゼア世界には魔力や魔法の概念があるため、純粋な硬さ強さ重さではなく、魔力を増幅させられる軽量で柔軟な布きれが「防御力の高い装備」になりもするのです。もちろん単純な図式ではなく、物理的な特徴に秀でた素材が好適ともされますが、その適性の尺度すら魔力的な要素が含まれていたりします。オリハルコンやミスリルやアダマント製の防具なんて現実にありませんよね。ならば防具の価値や意味が変わってくるし、つまりはそれら素材の価値、ひいては価値観も変わってくるのです。
くわえて言えば、現実世界において、鉄とオリハルコンのどちらが良いかはわかりません。オリハルコンの特性が地球環境で活きれば地球人には高価値ですし、そうでない(≒使いこなせない)のなら鉄より下です。ほかにも採算性や可用性やら様々な要素で価値が決まりますけれど、いずれにしたってオリハルコンが存在しない以上、想像でしかありません。想像でいいならなんとでも言えます。想像でいいなら拙者のお財布には5000兆円が入ってござるよ。そういうレベルの裏付けがないお話なのです。
環境が違えば需要が変わります。需要が違えば価値が変わります。であれば、理すら異なる世界を比較するのって、無理筋だと思いませんか。敢えてこじつけるのも楽しいのは否定しませんけれどね!
さらに詳しく
ギルには法定通貨ほどの後ろ盾がなく、換金性も備えていないからです。日本国の中央銀行である日本銀行が、日本銀行法に基づき発行する日本国の “法定通貨” となる銀行券が「円」。ドルとかユーロとかフランとかペソとかが仲間なのはご存じの通りです。法定通貨の特徴は、各国家が後ろ盾となって価値を保証し、物理的にも存在すること。このコインは100円!とか、この紙幣は10ドル!などを国家とその経済活動が担保するのですね。
一方で、巷で話題の暗号資産。これはいずこかの国の銀行が発行しているものではありません。現状では暗号資産の取引を確認・承認する (その作業は PC の計算で行う) ことで新たに発行され、その行為をマイニングと称しますが、このフレーズを聞いたことがある方は多いでしょう。そして物理的には存在しません。よって暗号資産と呼ばれます。定義は以下です。
(1). 不特定の者に対して代金の支払い等に使用でき、かつ法定通貨 (日本円や米ドル等) と相互に交換できる
(2). 電子的に記録され、移転できる
(3). 法定通貨または法定通貨建ての資産 (プリペイドカード等) ではない
銀行等を介さずとも即時に取引でき(その成否虚実の検証をマイニングが担う)、信頼性の高い仕組みから法定通貨との交換も可能であるため、暗号資産は今後第二の通貨として定着するとかしないとか……はさておき。FFXIVのギルはゲームサーバーから発行されます。払い出される値やその総量にビットコインのような定義はなく、時間さえあればいくらでも引き出せます。ギルには総量を調整する機能や機構はなく、実体もありません。法定通貨との換金も(規約に反さない限り)できません。そして、後ろ盾となる現実世界での価値=法定通貨と取引できる水準の信頼性を持っていません。暗号資産に近いのですが、その定義を満たさないレベルなのですね。
現代の地球において一番「つよい」のは「国」です。イルミナティやらフリーメイソンやら範馬勇○郎やらの可能性は一旦横において。国には大抵いろいろな資源があります。自然環境的なモノはもちろん、人間の数もそう。そうした様々な資源を担保にできるから取引に使えるわけです。ではギルがどうかといえば、いち「企業」が独自発行している仮想通貨であるうえ、換金性がないように設計運用されています。これをどうしても法定通貨と交換したい場合、ギルという通貨の価値ではなく、ギルというデータの需給のお話となるわけです。このあたりのニュアンスは説明すると長くなりますのでがっつり省きますが、こうなると、値段を指定するのは(まさに指値ですけれど)絵に描いた餅、なんですね。
意図的にぼかしている理由
それでも仮に、ゲーム内あるいは開発者トークなどで「1ギルは2000年代前初頭の日本における○円に相当」と発表があった場合は、実際にその価値があるかは別として、そういう想定なんだなとわかります。けれど、FFXIVに限らず、こうした仮想世界の作り手たちは “ファンタジーリテラシー” とでも申しましょうか、あえて明示的に結び付けぬよう気を配っているように思います。
実際、ゲーム内でギルの価値が示されるシーンはほとんどありません。何年にも渡り膨大なクエストが実装されながらもというのは、意図的と評して差し支えないと考えます。その数少ない参考値たちは以下。
急に金遣いが荒くなった常連客がいる。以前は安酒ばかりだったんだが、ここ最近、高級酒を頼むようになった。一本、数万ギルもする酒をガブ飲みだ。 – バスカロン
なんだお前?新米冒険者か。いかにも。ワシがこの市場を仕切っているセセロガだ。何?この市場について色々教えてほしいだと?はッ!何でこのワシがそんなことせにゃいかんのだ!?人にモノを頼むなら、せめて100ギルくらいそっと袖の下にいれんかい!ワシは忙しいのだ、シッシッ!-セセロガ
優勝賞品の「日神の指輪」を持ち帰ってみせるさ。売れば、3000万ギルにはなるだろうって品だ。エシュテムの首飾りも、サンシルクの外套も、好きなだけ買ってあげられるよ。- アヴィラ
うぎゃあああああああああああっ!!ぜ、全財産をつぎこんだ錬金釜がああああっ!けっ、研究費用っ! ご、5億6000万ギルっ!!ごおくろくせんまんぎるぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!- メメリガ
ハァ?1本でミスト・ヴィレッジのLハウスを1軒、楽々買える値段デスって~?冗談は顔だけにしておきまショウって、これまた失礼!それは何かの間違いでショウ!時価とはいえ、せいぜい2~3万ギル程デスよ!- ハンコック
高級酒場ではないバスカロンの店にも数万ギルの酒は置けて、市場の顔役に話をしてもらうための対価として失礼のない額が100ギルで、3000万ギルあれば高級な衣装と宝飾品を買い求められ、あくどい武器商人が注ぎ込める私財が5億6000万ギルで、ミスト・ヴィレッジのLハウスと比べれば2~3万ギルは端金とのこと。
これらを参考にすると1ギル = 1~10円かという印象ですが、あまり倍率が高いとローレンティスが富豪になります。とある媒体で「1ギルは212円」とされていましたが、ロマネ・コンティをガブ飲みしているんでしょうか。反面、低いとセセロガがやさしいおじさんになります。「常に対価が生じるのを忘れるな!商売の原則だ!」みたいなことまで教えてくれる顔役。それはそれで微笑ましいのはさておき。
アイテムレベルとマーケットボード
FFXIVにおいて特筆すべきは、アイテムレベルとマーケットボードの存在です。特に重要視すべきはアイテムレベル。これによってモノの価値、つまり物価に補正がかけられています。マトンシチューが16ギルなのに、コーヒークッキーが4000ギル程したり。地域差などを考慮にいれても、200倍以上の差が出るのは違和感を覚えますよね。くわえて、マーケットボードについてはNPCが語るシーンすらほとんど無く、ギルのお話より少ないのです。ここまで来ると、むしろリングサスのセリフが設定事故なのではと感じるほど。
「アーティザン」や「フォリジャー」の防具には、「秘伝書」を入手したクラフターが製作できるものもある。マーケットボードをのぞいてみるのもいいだろうな。-ガイディング・スター
ただし、それらのデミマテリアの入手には必ずしも自ら「分解」を行う必要はない。マーケットボードをのぞいてみれば、手に入るかもしれんな。-ガイディング・スター
ただピクシープラムは、ギルドショップのヨッシーは扱ってない。自力で採集するか、「西国際街商通り」のマーケットボードを見て、売りに出てないか探してみてくれ。-リングサス
アイテムレベルとマーケットボードはプレイヤーにのみ導入されている機能で、ゲーム体験を快適にサポートしてくれます。その一方で、ハイデリン世界に暮らす一般人にとっては無縁の代物であり、秩序の枠外にある代物です。それらが綯い交ぜとなって存在している時点で、ハイデリン世界は「物価」や「相場」が現実世界以上に流動的で、掴みどころがないものだと判断できます。ゆえに、明確なレートを定めることが難しく、定めたところで欺瞞にしかならないのです。
……この結論に至るまでの!前置きが!なげえでござる!でも、こうしてちゃんと積み上げておかないとですからね。(自分を納得させる
1ギルは1ギルにござるよ
つまり、
「1ギル=○円、という紐付けに至る情報を出さない」
「エオルゼア世界における1ギルの価値についても情報を出さない」
のふたつが実行されているため、ギルは円換算できません。それはゲーム世界を守るためであったり、プレイヤーに推測の余地を与えるためであったり、色々な考えができるでしょう。なんなら世界設定班の方に聞いてみれば案外答えていただけそうでもありますけれど、結局いまのところ「1ギルは1ギル」なのです。
世の中はわかりやすい情報がもてはやされがちです。正確さを犠牲にして成り立つわかりやすいモノが問題視されいますが、現代人は可処分時間の争奪戦に身を置かれているのも事実。そのバランスはなんとも悩ましいものです。この記事も「ならば1ギルとは何か」の疑問を呼び起こすことなく「1ギルは○円くらいだよ!」と書いちゃえば楽でした。実際、そうした切り口でも何ら咎められはしないでしょう。けれどやっぱり、
・よくわからないことを
・既存のモノサシを考えなしにあてがって
・わかったフリをする
振る舞いはダメだよなぁと思ってしまいまして。違う世界じゃん、って。
二者を比較評価する際は、それぞれに使える共通のモノサシが必要です。でも、あてがったみたモノサシが誤っていることは多々あります。そのときに「モノサシが間違っている」と考えられるか、別のモノサシを探し当てられるかが大事だと私は考えます。ひとつのモノサシにこだわって見誤るのは悲しい。今回のケースでいうところの、断片的な情報から1ギルの価値を算出する行為です。もちろんそれはそれで、浅い感じのエンタメとしてはアリなのですけれどね。
おわりに
長いですよね。反省してござる。でも書きたいことはだいたい書いたから満足にござる。1ギルは1ギルでござる。一見わかりにくいようですが、そう理解するのが一番わかりやすいように思います。
違う世界のお話だから、詳しく知り尽くしたい気持ちはあります。その一方で、推測や想像の余地があり「わからないことがわかる」なんて地点に行き着くのも、また楽しいことなのだと思います。私の所持金1000万ギルが円換算でいくらかなんて刹那的に面白がっておしまいな結論より、こうした理解を深められることが嬉しいでござるね、という締めでこの記事もぶん投げにござるぅ₍՞◌′ᵕ‵ू◌₎
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