刀が存在するならば、刀を創る匠もまた存在します。作刀は高度な技術が求められるため、見事な一振りを生み出す匠が称賛を浴びるのはハイデリン世界も同様のようで、これまでに複数の名匠が歴史に名を残しています。今回はハイデリン世界の稀代の刀匠たちをご紹介……する前に、まずは日本刀と刀匠の関係性について!
工芸品と工業品。
独自の発展を遂げた日本刀は、その文化も独特です。特筆すべきは、刀匠の名が刀本体とともに評価され、伝来していること。これは、日本刀は製作者個人の技法や力量に大きく依存する工芸品で、西洋剣はギルドに代表される社会的仕組みが構築されたうえでの工業品だったからではないかと考えます。工芸品は美しさや精神性を求められる側面があるのに対し、工業品は実利が何より重視されます。どちらが良い悪いではなく、そういう社会と文化の違いでしょうね。
西洋では「コルト」「ブローニング」「カラシニコフ」「レミントン」などが名を馳せていますが、いずれも銃(工業品)です。日本刀にルーツを持つ「孫六」の包丁やハサミなども有名なブランドですが、これは珍しいケース。そうした文脈のうえで、武器でありながら唯一無二を尊ばれた日本刀の異質さを思うせっしゃです。
銘を切る。
「数打ち」を除き、日本刀は刀身作者が茎に銘を入れます。狭義では刀工銘のみを銘としますが、広義には以下の種類があります。
・刀工の名前: 刀工銘(とうこうめい)
・作成日時: 年紀銘(ねんきめい)
・所在地や所領: 受領銘(ずりょうめい)
・注文者の名: 為銘(ためめい)
・所有者の名: 所持銘(しょじめい)
・鑑定済みの証: 極め銘(きわめめい)
・試し切りレポ: 截断銘(せつだんめい)
・名物だよの印: 刀号銘(とうごうめい)
刀工銘・年紀銘・受領銘は、自らの作であることを示すために彫る銘です。為銘は注文者からの依頼で刀工が、所持銘は刀を入手した本人が彫ります。極め銘は本阿弥家が鑑定した内容、截断銘は試し斬り結果、刀号銘は逸話付きになった刀に後からその愛称を彫ったものです。ゆえ、刀号銘を最初から彫ることは本来ありません。できたてを「これは名物!」アピールとは、奥ゆかしさポイントが低いでござる!
さておき、銘システムの実装は、西暦701年制定の「大宝律令」において『年月及ビ工匠ノ姓名ヲ鐫題セシム(営繕令)』『横刀・槍・鞍・漆器ノ属ハ、各造者ノ姓名ヲ題穿セシム(関市令)』と規定されたためです。1300年以上の昔に原産地証明書やトレーサビリティ構想があったという。とはいえ、そもそも識字率が低い時代。現存最古の在銘刀が200年以上後の品であることから、当初は浸透せず、守られもしなかったと考えられています。
その後、文化の発展に伴い銘システムが定着していきます。というわけで、刀匠本人が彫る場合の一例。名前は松乃雪、作成はゲーム内の暦にあわせて第七西暦の九月、受領名は「黄金守(くがねのかみ)」なら以下のように茎に彫れば、この刀はあの人が打ったのか!とわかる寸法です。
黄金守松乃雪 第七星暦元年九月吉日
こぼれ話のこぼれ話: 受領銘について。
和泉守兼定や津田越前守助広などが有名ですが、こうした『○○守』は、お偉いさんから贈られることもあれば、モンドセレクションよろしく申請して購入するケースもありました。商いの箔付けになることから、求めた商人は多いとされます。刀匠もそうしたものを望んだかは不明ですが、江戸時代の刀匠が受領銘を彫るには金道家を通じた拝領が必要と定められており、いずれにしても易々と詐称できるものではなかったことでしょう。
また、そうした受領銘を持たずとも、信濃国や長船など、個人が判別できるように在住地を彫ることがありました。ちなみに、有名な備前長船とは「備前国の長船村」のこと。備前長船兼光なら、備前国の長船村の兼光さんが作った刀、というわけですね。
ただ、すべての刀が「受領銘+刀工銘」というわけでもなく……なんて更なる脱線は踏みとどまります。
ハイデリンの刀匠たち。
蘊蓄はこのくらいにしまして、ハイデリン世界に名を残す刀匠たちのご紹介です。刀剣目録でご紹介済みの場合はそちらの記事もあわせて!引用マークで囲まれた箇所はエオルゼア百科事典第二版からの引用にござる!
片山一文字(かたやまいちもんじ)
一文字派に連なる刀工集団、片山一文字派の手による逸品。彼らの開祖が打った菊一文字と比べると美しさ、斬れ味ともに一歩劣るものの、それでも名刀と呼ぶにふさわしい出来栄えを誇っている。
一文字派は、現実世界でも有名な一派です。福岡一文字、片山一文字、正中一文字などがあります。言及されている開祖は則宗のことで、菊一文字は侍のアーティファクトとしてしばらく前に実装済みです。しばらく前に実装済みなのにまだ個別記事がないのは、半端な知識や姿勢で臨んではいけない気がするから……₍՞◌′ᵕ‵ू◌₎
さておき、ハイデリン世界でも「一文字派に連なる刀工集団」がいるならば、現実と同様、福岡片山正中の派が存在した可能性は高いでしょう。つまり、それらの名を冠する刀が登場する可能性大というわけです!
兼定(かねさだ)
ひんがしの国の豪族ヤツルギ家に仕えたことで知られる刀工、カネサダの作。乱れた波間のように見える刃文や、柄に施された漆塗りの蒔絵が美しい。
現実史上に兼定さんは多数存在しますが、敢えて豪族≒大名に仕えた≒お抱えであると記述していることから、会津兼定がモチーフな気がします。乱れた波間という表現から想起するイメージは人それぞれかと思いますが、概ね会津兼定の系譜(美濃伝)の特徴を言っていると判断して良さそうです。
和泉守兼定の佩用者で有名な土方歳三は、十一代目会津兼定の作を所有していたとされます。ちなみに、ヤツルギ家の当代当主はユキ姫、忍者クエストで出てきます。同名のうえ髪型が同じアウラ族でシンクロニシティにござった₍՞◌′ᵕ‵ू◌₎
左文字(さもんじ)
伝説的刀工マサムネの弟子のひとり、サモンジが打った刀であり、その鞘には作者が好んで用いた三枚の貨幣を象った紋様が刻まれている。
モチーフは左文字源慶、本品もその代表的作「江雪左文字」と思われます。ゴウセツのサモンジ。……詳しくは上の記事をご覧くだされ!
虎徹(こてつ)
100年ほど前に活躍した、ひんがしの国の刀工、オキサトによる作。刀工にして甲冑師でもあった彼は、自らが制作した鎧で試し斬りを繰り返したという。
モチーフは長曽祢興里(ながそね おきさと)でしょう。現実世界史の長曽祢一族および興里も甲冑師であり、興里が本格的に刀匠として活動を始めたのは五十代になってからだったとされます。そのあたりを総合して「自らが制作した鎧での試し斬り」のエピソードを創ったのかもしれません。しかし、この改良手法はどこかで聞いたことがあるような……?( •᷄ὤ•᷅)
そして「虎徹を見たら偽物と思え」と云われるほどの大人気っぷりは特筆されます。銘を真似しやすかったから等と言われますが、FFXIVにおいても「虎徹【偽】」なんて代物まで存在していたり。
舞草(もくさ)
モクサとは、ひんがしの国の伝説的な刀鍛冶の一派。かつて直剣が主流であった時代に、初めて反りのある刀を打った者たちとされている。
舞草は、日本刀の始祖であったとされます。が、なにぶん古いこと、実戦的な色が強かったため保存されずに使われきったと思われることなどから、現代まで研究が進んでおらず、本当に始祖だったのかを含めまさしく伝説的な代物です。そんな舞草刀が、なぜか赤魔道士の細剣に。あるいは、この曲がりくねったフォルムは実戦を経るなかで刻まれた傷だったりするのでしょうか。
舞草鍛冶は個人的に気になっているので、いつかしっかり調べられたらいいなぁという気持ち。なにかのルーツって浪漫があるじゃないですか(ृ ‘꒳’ ृ)ちなみに、インターネット上の舞草情報で一番わかりやすいのはFF11の用語集サイトではなかろうかと思うせっしゃです。
鬼切(おにきり)
ドマの刀工、ヤスツナが打った刀剣。大鬼の腕を切り落としたという言い伝えから、鬼切と呼ばれる。
モチーフは大原康綱と思われます。日本刀というより柳葉刀っぽさがあるフォルムながら、元ネタは現在も実存する日本刀のなかでも天下五剣に数えられる逸品です。来歴にある通り、鬼の腕を切り落としたとか、鬼を真っ二つにしたとかで鬼丸と号されます。鬼さんは木人ちゃうねんぞ。
鬼の正体は何だったか、というお話は度々俎上に載ります。やれ人類の恐怖心を投影した虚像だとか、やれ実際の人間で当時は珍しかった外国人のことだとか(天狗でも言われますね)、いろいろと考えられるかと思いますけれど、ひとまずこの刀は「おにぎり」ではないとだけ覚えておけばだいじょうぶです。
大伝多
はるか昔に、ドマの伝説的刀工が打った野太刀。その刀身には、樋が掻いてあり、さらに螺鈿細工により華麗な装飾が施されている。
天下五剣に数えられる大伝多(大典太)。名前こそ明かされていませんが、作者のモチーフは三池典太光世(みいけ てんた みつよ)でしょう。侍の刀ではなく、暗黒騎士の大剣としてハイデリン世界では存在します。ということは、いつかソハヤノツルキも来たりするのかな……!
侍の刀カテゴリではないため、どうしても挙動や形状が現実とは乖離しがちなモノが多いなか、大伝多は野太刀っぽさの濃い仕上がりになっています。もちろん、実物の大典太とはだいぶ違いますけれど、それはそれ、これはこれ、で楽しみたいですね!
獅子王(ししおう)
作者は不明で、「獅子王」という号のみが伝えられている。嘘か真か、悪しき瑞獣「ヌエ」を討伐した報奨として、時の帝がある侍に下賜したものだという。
実物と同様、無銘=作者不明と推測されます。実物は鞘とあわせて国宝指定されている逸品ですが、ハイデリン世界の獅子王は細剣のため鞘はありません。護拳があるあたりはサーブルなどに寄せてきていますが、刀身の反りは日本刀の面影を感じさせますね。
赤魔道士の細剣には、魔法を行使する際の宝玉がセットとなっています。この獅子王の宝玉は、ちょっとかわいらしい獅子のデザインをしていたりします。
番外: ソボロ助広
現時点でアイテムとしての実装はされておらず、「事件屋クエスト」のストーリー中にのみ登場します。刀の名前がソボロ助広で、刀匠の名前もソボロ助広です。名前の由来は、ぼろぼろの着物を好んだ変人だったからとか、そうした技法を用いたとか諸説ありますが、昨今では “ソホロ小路” に住んでいたからという説が有力、らしいです( ˊᵕˋ )
ただしこの刀、FF11のとある出来事がきっかけで、ネット上では「取り逃げ(※アイテムを取得した途端に姿をくらますこと)」の代名詞としてヒットします。ミーム汚染にござるな₍՞◌′ᵕ‵ू◌₎詳細はこのへんを見るでござるよ。
おわりに
今回は、刀匠の名と来歴が揃っているものを抜粋しました。こうした情報は、世界の奥行きと没入感を増してくれるものです。もちろん、逸話や来歴がないものだって、素晴らしい品は数多あります。
しかしながら、あくまでそれは「これまで」のストーリー。ひとたびあなたが手にした後は、そこから紡がれる歩みこそが歴史となるのです。こうした小話やこぼれ話を楽しみつつ、自分だけの一振りを見出し、携え、世界を旅していただけたら嬉しいな、と思うせっしゃでございました!
この記事へのコメントはありません。